KMF スリム・スプリット・ベアリングの特長を解説します
KMF スリム・スプリット・ベアリングの特長は大きく分けて 5 点あります。
1.従来のベアリングとは形状や製造方法に大きな違いがある。2.材質(ケージ及び転動体)の選択が可能である。耐食性が高い。
3.ハウジングへの取り付けの容易さ、及びメンテナンス性の良さ。
4.標準ベアリングと比較して定格荷重が著しく大きい
5.コスト競争力の高さ、及び入手性(納期)の高さ。
1.従来のベアリングとは形状や製造方法に大きな違いがある。

KMF スリム・スプリット・ベアリングは名 前の通りスプリット(分かれている)されたベアリングです。内輪、外輪、そしてボールをはめ込んであるケージまでスプリット(分かれている)されたものになります。つまり従来のベアリングとは異なり内径、外形が固定され、円形になっているもの、ではないという事です。
切断面はクラウニング加工がなされており、転動体の乗り換え時に出来るだけ騒音を発生しないように配慮されています。なお、この種類の薄肉ベアリングは一般的に断面に対して直径比率が大きく、転動体数量がかなり多くなっております。(直径と断面サイズによりますが数百個の転動体が入る)そのため、荷重時に負荷領域下の転動体数量が非常に多く定格荷重の低下に影響を及ぼさないレベルとなっております。

KMF スリム・スプリット・ベアリングは製造方法にも特徴があります。一番大きな特徴は機械的な切削加工は一切していない構造だという事です。内輪、外輪ともにその輪郭が成型され、硬化、円弧成形されるのです。そのため非常に大きなサイズの薄肉型ベアリングが提供できるのです。例えば断面形状が縦横 3.175mm のごく薄い形状の PBXS シリーズにおいて最大内径が 762mm のものがカタログに掲載されております。カタログ掲載外の特注品ですが内径 1,016mm のものまで製造されております。このような特殊な現状には存在しないような大きな製品であるにもかかわらず、この製造方法により非常にリーズナブルな価格での提供が可能になっております。
2.材質(ケージ及び転動体)の選択が可能である。耐食性が高い。
KMF スリム・スプリット・ベアリングは転動体(ボール、ころ)、ケージ(保持器)の材質を変更することが出来ます。環境要件や質量の制限、様々なアプリケーションに要求される耐食性などに応じて、ご要望がありましたらその材質を変更することが可能です。
| 標準仕様: | ||
| ・内輪、外輪、転動体 | → | X46Cr13 (SUS) |
| ・樹脂ケージ | → | PA12 |
| ・使用温度環境 | → | -40°C to +120° |
| 特注品 例) | ||
| 転動体(ボール) | → | セラミック、等 |
| ケージ(保持器) | → | PEEK、PTFE、等(ただし最低ロットあり) |


KMF スリム・スプリット・ベアリングの標準品はステンレスを使用している為、食品機械や医療機器、半導体製造装置などに適していると言えるでしょう。また、ステンレスの防蝕作用により錆に非常に強いという特性もございます。
また、筐体部分(ハウジングやシャフト)に関しては軽合金、アルミニウム、等を使用する事が可能です。技術的な内容に関してはお問い合わせをお願いします。
3. ハウジングへの取り付けの容易さ、及びメンテナンス性の良さ
KMF スリム・スプリット・ベアリングは前回の形状の違いにて説明致しましたが、内輪及び外輪、そしてケージまでスプリット(分かれている)されている製品です。すなわちハウジング又はシャフトへの圧入という取り付け工程が必要ありません。円としてつながっていないのでハウジングへは径を狭めて、シャフトへは少し開いて取り付けます。ただし、ハウジングやシャフト部の寸法精度は KMF が推奨する範囲内で加工する必要があります。現在の日本におけるベアリング取り付け部(ハウジング又はシャフト)の精度と大きく変わるものではなく特殊な加工も必要ありません。詳細はカタログをご参照ください。
KMF スリム・スプリット・ベアリングの隙間形状
CSX..S


メンテナンス性の良さについても触れておきます。ベアリングの標準的な使用におきまして KMF スリム・スプリット・ベアリングはグリスを補填する必要がありません。もちろん、環境温度や回転数によっては必要になりますが、通常使用の場合とお考え下さい。また通常ベアリングをハウジング、シャフトへ組み込んでしまいますと交換に非常に手間がかかります。シャフトを抜き、圧入してあるベアリングを外す、簡単ではありません。KMF スリム・スプリット・ベアリングはベアリング押さえを外せば簡単に外す事が可能です。
このような事より取り付けの容易さ、メンテナンス性の良さをうたっております。
4. 標準ベアリングと比較して定格荷重が著しく大きい
この特徴を説明するにはベアリングの組み立て方を知る必要があります。この組み立て方によって転動体であるボールの大きさが最大になり、またその数量が最大になります。それにより定格荷重に大きな差が生じるのです。下記にその内容を示しますのでご確認ください。
従来のベアリングの組立方法(コンラッド充填法)

先ず外輪の内側に内輪を入れて片側に寄せます。内外輪の間に出来たスペースに転動体(ボール)を入れていきます。すなわち転動体(ボール)の大きさと数量がこの隙間によって決定されます。

次に内輪を中心に戻し、転動体の位置も均等にならします。
転動体同士がぶつかったり偏ったりしないようにスナップオーバー式の保持器を組み込みます。

上述の内容より、転動体の大きさや数量は形状(組み立て方)によって制限されてしまう事がお分かりになるでしょう。
KMF スリム・スプリット・ベアリングの組立方法

上記の方式に対して KMF スリム・スプリット・ベアリングの組み立て方式は内輪も外輪もケージ(保持器)もスプリット(分かれている)されているため、その内外輪に組み込める最大の大きさの転動体(ボール)を使用し、かつ最大数量まで組み込めます。

まずケージ(保持器)にボールをはめ込みます。

そのボール付きケージを内輪にはめ込み、その 後外輪を少し広げてケージの上にはめ込みます。

この組み立て方、KMF スリム・スプリット・ベアリングの特性により従来品(同サイズ)と比較して静定格、動定格荷重が非常に大きくなるのです。
5.コスト競争力の高さ、及び入手性(納期)の高さ

KMF スリム・スプリット・ベアリングは切削機械加工を行わない特殊塑性加工で製造されています。その利点(切削加工なし)として、製品素材原料から製品の一次加工を行う歩留まりが 99%程度と非常に高い事があげられます。次に一次加工後は内外輪共に共通の形状となっており直線状に仕上げられます。直線状に作られた内外輪はお客様のオーダーにより必要な直径に切断、特殊な曲げ加工によって最終製品(スリム・スプリット・ベアリングの内輪及び外輪)となります。

この断面形状精度は大変良好なもので切削加工では得られない連続して安定した精度となっております。 また、製品の表面粗さは切削加工では得ることのできないRz0.2 となっております。
上述のように製品素材に無駄がない事と非常に少ないエネルギーコストで生産されているのです。また、KMF スリム・スプリット・ベアリングはカタログをご覧になって頂くとわかる通り径サイズが非常に多いです。しかしその内外輪はたったの 5 種類(断面形状のサイズ)しか製造されません。直線状に長く生産し必要に応じて切断することで径サイズ間での共通化を図っているのです。そのため生産効率が非常に高く、リーズナブルにかつ短納期で提供が可能になるのです。
この KMF 製造方法は原材料の使用料削減、エネルギーの最小化による CO2 排出量の削減など世界的に要求が高まる自然環境保護や持続可能な開発目標に合致した製品でもあります。



