世界最多四輪販売車の立役者
日本独自規格CM隙間
ISOで規格化されている軸受内部隙間には無い日本独自の内部隙間記号がCM隙間です。これは小型モーターなどに使用されるもので、内部隙間はC2隙間と同程度で隙間は小さくなっております。
なぜ日本独自かといえば屋内で使用される家電製品の騒音を抑える為です。欧米では家の大きさが大きく石造りだったりするので騒音に対して許容範囲が違うのです。日本の家は海外と比べて小さいですからね。(昔ウサギ小屋などと揶揄されていましたが)
実はCM隙間製品は単に内部隙間を狭くしているだけではないのです。内外輪のレース面の面粗度を極限まで向上させております。
そして、洗いを徹底して製造時に発生した微小コンタミを極力少なくしているとのことです。
軸受の曲率は各社の極秘事項
ISOで規格化されていない軸受内部設計で結構影響の大きなファクターがあります。それはレース面の曲率です。
もし、ボールサイズに対して同じ曲率ならボールの端まで接触してしまい滑りが極度に大きくなって回転が困難になります。
よって、通常は内輪104%、外輪106%程度です。この曲率をどれぐらいに設定するかで性能が大きく変化します。
曲率を大きくすると低トルクで回転しますが、接触楕円が小さくなって面圧が集中するため定格荷重は小さくなります。
逆にギリギリまで曲率を小さくすると接触楕円が大きくなり定格荷重が向上しますが接触面の滑りが生じて高速回転が出来なくなり回転トルクが上昇します。
このデータは各メーカーはほとんど開示することはありません。
スケボーのベアリングは超高性能?
軸受にかかわる仕事をしてますと、スケートボードのベアリング売ってるかと聞かれることが度々あります。
ほとんどのスケボーのウィールベアリングは608という規格サイズを使用していますが、専用のメーカー品(BONES、NINJA、G3等)かなり高性能なベアリングを使用しています。

一般的な産業用だと1個100円未満ですが、専用品の高級品なら1個1,000円以上します。これはセラミックスのボールを使用したり精度等級がP4級だったり産業用でいう工作機械のスピンドルベアリングに近い超高性能なベアリングなんです。
正直スケボーのベアリングにそこまでの高精度なものは不要かと思うのですが、そこは趣味のものですからより良いものをコストを気にせず求める方がいれば開発されていくと言う事でしょうか。
世界最多四輪販売車の立役者
昔、ドイツの絨毯製造のメーカーが織機械の故障に悩んでいました。その機械にはニードルベアリングが多数使用されていましたが当時は総ころタイプのものしかありませんでした。(総ころ:保持器が無く針状ころがみっちり詰められていた)しかし使ってゆくうちに内部のニードルがスキュー(傾き)を生じて最終的にロックして回らなくなるというトラブルが多発したのです。
これを解消するためにシェフラー博士(のちにINAブランド)がニードルが傾かないように保持器を使用することを考えて製品化しました。これが大成功しいろんな産業に使われ始めて、当時世界的大ヒットとなったフォルクスワーゲン車のビートル(タイプ1)のトランスミッションに多数使用されました。(単一車種累計2,000万台以上で未だに世界1位)

このトランスミッションは驚くほど小型で高性能でした。ビートルは世界的に売れましたが各国の自動車メーカーは必死になってこのビートルを分解して一体どんな部品を使っているのか探りました。そうすると、INA社の保持器付きニードルベアリングが多数使用されていました。
従来のボールベアリングはシャフト径に対して外輪が大きく、シャフト間距離を一定以下に詰めることが出来なかったのでトランスミッションのサイズを小さくすることが出来なかったのですが、このニードルベアリングを使用するとシャフト間距離をギリギリまで詰められるので機械の小型化に大いに役に立っていたということです。
当時はINA社の独自規格で他社に互換品はありませんでしたが世界中からINA社にこのニードルを供給してくれと殺到したとのことです。
真っ先にこれを採用したフォルクスワーゲンはファーストペンギンとして大いに先行者利益を手に入れることが出来たのでしょうね。
その後世界的需要に対応するために日本では当時、東洋ベアリング(現NTN社)へライセンス提携しINA-NTNニードル工場を立ち上げ日本国内で生産が開始されました。現在は提携は解消されておりますがINA社の軸受型番とNTN社の型番が同一なのはこの経緯があるからです。


