遊星ローラーねじとは

遊星ローラーねじは、回転運動を直線運動に変換する機構の一つです。この用途では、一般的に「滑りねじ」や「ボールねじ」が使われています。

実は、遊星ローラーねじは約100年前にスイスで発案された歴史ある技術です。しかし、その構造の複雑さから、これまで広く普及することはありませんでした。近年では、技術の進化により、再び注目を集めています。

直動変換機構の比較

▶ボールねじ

ボールねじは、らせん状の溝が施されたねじ軸(スピンドル)とナットの間にボールが組み込まれています。ボールが転がることで「転がり摩擦」が発生し、非常に高い効率を実現しています。そのため、工作機械や半導体製造装置、ロボット、精密動作が必要な機器に欠かせない製品です。

▶滑りねじ

滑りねじは、ねじ軸と同じ形状のナットが滑りながら回転して前後に動作します。一般的なボルトとナットの仕組みに近い構造です。ナットには、滑りの良い「砲金(ほうきん)」などの素材が使われ、安価で剛性が高いため、幅広く利用されています。しかし、「滑り摩擦」が大きいため、ガタつきや摩耗、騒音の問題があります。

▶油圧シリンダー

非常に大きな推力が必要な場合には、油圧シリンダーが使われます。油圧シリンダーは、そもそも直動運動を行うため、複雑な機構は必要ありませんが、動作には「油圧ポンプ」とその動力(電動モーターやエンジン)が必要で、大掛かりなシステムになります。主に、建設重機やプレス機などで利用されています。

遊星ローラーねじの特長

摩擦係数(効率)の面では、遊星ローラーねじは「滑りねじ」と「ボールねじ」の中間に位置します。

遊星ローラーねじでは、ねじスピンドルとナットの間にボールではなく「小さなローラー」が組み込まれています。このローラーは、ねじ山の斜面に沿って回転し、効率の良い転がり摩擦を実現しています。ボールねじほどの効率はありませんが、滑りねじよりも効率が高く、バランスの取れた製品です。

既存の遊星ローラースクリューとの違い

この度紹介する遊星ローラーねじは画期的な生産技術により低コストでボールねじと同等価格で提供が出来るようになりました。

既にある遊星ローラースクリューはボールねじの約10倍の価格が必要であり相当特殊な用途でしか採用することは出来ませんでした。

最大のメリット

遊星ローラーねじの最大のメリットは、細かなピッチ設定と高回転性能です。1回転あたりの直線移動距離が「0.7mm」と非常に細かく、高速回転(最大5000rpm)も可能です。

これにより、同じ直線運動を実現する場合でも、小型のモーターで十分なトルクを得られ、減速機が不要になるケースがあります。例えば、100kgを10cm持ち上げる場合、ボールねじ(ピッチ7mm)なら14.2回転必要ですが、遊星ローラーねじ(ピッチ0.7mm)なら142回転必要です。

この特性から、「エネルギー密度の高い変換装置」として評価されています。弊社の「PWG05」型番では、直径5mmのスピンドルで、動定格荷重700kg、静定格荷重1000kgと、ボールねじの2~3倍の性能を持っています。

適用分野と活用例

遊星ローラーねじは、特に「油圧シリンダーの代替」として期待されています。

医療機器: 歯科用チェアの電動化(油圧レス化)

救助機器: 災害現場で使用するスプレッダーやカッター、ジャッキのコードレス化

工具分野: 圧着工具の電動化、バッテリー駆動

住宅設備: 電動オーニングや介護ベッドのアクチュエータ

弊社「FT Engineering」では、遊星ローラーねじを活用したアクチュエーターやユニットの設計・開発も承っております。お気軽にご相談ください。

まとめ

遊星ローラーねじは、油圧システムやボールねじに代わる高効率・高耐久の直動変換機構です。特に、小型・軽量化やコードレス化を求める分野で、大きなメリットを提供します。

今後も、より多くの用途に向けて、遊星ローラーねじの可能性を広げてまいります。