クロスローラーベアリングを「自社専用設計」する革新的手法とは? KMF社と共に実現するオンリーワン製品開発の道
~標準品では到達できない領域へ、その一歩先を行く機械設計のために~
機械設計開発において、究極の目標は、その用途、目的、そして構造に完璧に適合した「専用設計の軸受」を使用することではないでしょうか。しかし、ベアリングメーカーではない企業が、軸受そのものの設計開発から製造までを一貫して行うことは、現実的には極めて困難です。そのため、多くの場合は豊富なラインナップを誇るベアリングメーカーの標準型番から選定するという手法が採られます。
99%のケースでは、このアプローチで問題ありません。標準品には、入手性、互換性、そして価格合理性という大きなメリットがあり、賢明な選択と言えるでしょう。しかし、一方でこうもお感じではないでしょうか?「各社の機械に使われるベアリングが似通ってしまい、結果として製品の性能やデザインが均一化し、独自性を出しにくくなっている」と。
ベアリングメーカーが提供する標準サイズは、一定のステップで設定されています。もし、お客様の設計で真に求められる内径が110mmだとしても、カタログには100mmと120mmしかなく、どちらかを選択せざるを得ない…そんな経験はありませんか?
成熟市場で競争優位性を築くために
特に技術が発展し成熟した分野においては、機械の優位性や競争力を確立するために、細部にわたる最適設計が極めて重要になります。そのわずかな差が、将来的に市場シェアを左右する分岐点となり得るのです。
私たちエフティーエンジニアリングは、ドイツKMF社と共に、お客様が世界的な競争を勝ち抜くオンリーワン製品を開発できるよう、その核となる「専用設計のベアリング」という重要な選択肢をご提案します。
なぜクロスローラーベアリングなのか? その優れた構造と可能性
クロスローラーベアリングは、その単列構造にもかかわらず、ラジアル荷重、アキシアル荷重、そしてモーメント荷重といったあらゆる方向からの複雑な荷重に対応できる非常に優れた軸受です。内外輪に精密加工された90°のV溝軌道面を持ち、円筒状のローラー(コロ)を90°ずつ交互に配置することで、線接触による高い剛性と負荷容量を実現します。このコンパクトさで高機能を発揮する点が、クロスローラーベアリングが選ばれる大きな理由です。

(クロスローラーベアリングの基本構造図)
従来のクロスローラーベアリングにおけるローラーの組み込み方法は、主に以下の2つが知られていますが、KMF社はさらに独自の革新的な方式を確立しています。
- 入れ穴方式(プラグ方式)
内輪または外輪の一部にローラー挿入用の穴を設け、そこからローラーを組み込んだ後、プラグ(埋め栓)で蓋をする方式です。熱処理前に穴あけ、ねじ加工、プラグのねじ込み、位置決めピン加工といった工程が必要となり、S50Cのような中炭素鋼での製造が可能です。しかし、プラグ部分の応力集中や、製造工程の複雑さが課題となる場合があります。 - リング分割方式
高硬度の軸受鋼を用いることができる一方で、製造難易度が非常に高い方式です。V字の軌道溝はノッチ(切り欠き)に似た形状となるため、その部分でリングを意図的に分割し、ローラーを装着した後に再度結合します。組み立て後の形状を維持するために、断面に円溝を設けスナップリングで固定するなどの工夫が凝らされています。この方法は、専門の軸受メーカーならではの技術と言えるでしょう。
KMF社が提案する革新的ソリューション:「KMF方式」
上記に加え、私たちとKMF社がご提案する独自の方法が「スリムスプリット方式(Slim Split Type)」です。
この方式の最大の特徴は、内外輪に設けられた分割面により、リングをわずかに押し広げてローラーと保持器を容易に組み込める点にあります。ローラーは連結された樹脂製リテーナによって正確な位置に保持されており、脱落の心配もありません。この構造により、ベアリング自体の分解・組立ても極めて容易となり、機械への取り付け作業の効率も大幅に向上します。
内外輪に切断面がありますが斜めにカットされており、ローラーの段差乗り換え時に振動を最小限に抑え使用上問題は発生しません。

(KMFスリムスプリット方式の構造図)
「自社専用クロスローラーベアリング」を実現する2つのアプローチ
KMF社との連携により、お客様の機械に最適化されたオリジナルクロスローラーベアリングを製作する具体的な手法は、主に以下の2つです。
1. KMF方式:特殊引き抜き材を活用した自由設計
KMF社が誇る特殊引き抜き材(プロファイル材)で製造された内外輪を用いる方法です。この方式のメリットは計り知れません。
- 自由なサイズ設定: 内径を1mm単位で、最小200mm程度から最大1,000mm(理論上は上限なし)まで自由に設定可能です。「あと数ミリ小さければ/大きければ…」といった設計上の制約から解放されます。
- 容易な組立・分解: 前述のスリムスプリット構造により、誰でも容易に組み立て・分解が可能です。
- 確実なローラー保持: 樹脂製リテーナがローラーを確実に保持するため、組み込み時のローラー脱落リスクを低減します(強い力で押せば取り外しも可能です)。
- お客様の作業負担軽減: お客様には、ベアリングを設置するハウジングや軸の精密な加工面をご用意いただくだけです。
KMF社の標準シリーズとして「PSX…08シリーズ」もございますが、これをベースとしたカスタム対応も柔軟に行えます。
2. 入れ穴方式の応用:機械本体への直接軌道加工
お客様の機械本体や軸に直接V字溝の軌道面を設けることで、ベアリングという部品を別途購入・組み付けすることなく、クロスローラーベアリング機能を機械に内蔵する革新的なアプローチです。
- ケース1:本体・軸材質が焼き入れ可能な場合(例:S45Cなど)
機械の主要構造部材がS45Cなどの焼き入れ可能な鋼材であれば、その部材に直接V字溝を加工し、熱処理を施すことで軌道面を形成できます。この場合、必要となるのはKMF社製の精密ローラーと専用保持器のみとなり、部品コストの削減と省スペース化に大きく貢献します。
軌道面の加工は、基本的に90°の直線加工(旋削や研削)であり、要求される精度や用途によっては、ハードターニング(高硬度材旋削)のみでの仕上げも可能です。
※詳細な加工条件や実現可能性については、ぜひ弊社技術員にご相談ください。 - ケース2:本体・軸材質が焼き入れ困難な場合(例:FC鋳物、軽合金、アルミダイカストなど)
鋳鉄やアルミニウム合金のように、直接的な焼き入れ硬化が難しい材質の場合でも、諦める必要はありません。KMF社は、硬化処理済みの薄い**シートメタル製軌道面(Sheet Metal Raceways)**を提供しています。
これは、精密にプレス成形された90°のV字断面を持つ板金部品で、内輪用と外輪用でV字の向きが異なります。お客様の機械本体や軸にV字溝を加工した後、このシートメタル軌道面を専用の金属用接着剤で強固に貼り付け、最終仕上げ加工を施すだけで、高硬度の軌道面が完成します。
この方式の大きなメリットは以下の通りです。- 母材を選ばない: 本体材質の制約を受けません。
- 熱処理工程が不要: 大掛かりな熱処理設備や、それに伴う歪みリスクを回避できます。
- 大口径にも対応: 直径2mを超えるような大型機械への適用実績もございます。
- スムーズなローラー走行: シートメタル軌道面には製造上の分割面が生じますが、これを斜めにカットすることで、ローラーが段差を乗り越える際の振動を最小限に抑え、滑らかな回転を実現します。 ※この革新的なシートメタル軌道につきましても、ぜひ弊社技術員にお気軽にお問い合わせください。
まとめ:オンリーワン製品で、未来を切り拓く
標準的なカタログ品では満たせなかった特別な要求仕様や、製品の性能をもう一段階引き上げたいというご要望。KMF社が提供するカスタムクロスローラーベアリングのソリューションは、そうしたお客様の課題を解決し、オンリーワン製品開発を力強く後押しします。
「こんな特殊な使い方はできないだろうか?」「このスペースに最適なベアリングはないものか?」
そのお悩み、ぜひ一度エフティーエンジニアリングにご相談ください。KMF社との強固な連携のもと、お客様の製品に革新をもたらす最適なベアリングソリューションをご提案させていただきます。
お問い合わせは、弊社ホームページのお問い合わせフォーム、またはお電話にてお待ちしております。


