次世代ロボティクスを支える「機電一体」の革新~アキシャルギャップモーター(AGM) × KMF大径スリムスプリットベアリングの可能性
今回は、ヒューマノイドロボットや協働ロボットの関節駆動において、今後のブレイクスルーとなる可能性を秘めた「アキシャルギャップモーター(AGM)QDD」と「大径薄肉軸受」の統合構造について考察します。
1. アキシャルギャップモーター(AGM)の急浮上と薄型・高トルクの法則
近年、次世代モビリティやドローン、そしてロボティクスの分野でアキシャルギャップモーター(AGM)QDDが急速に注目を集めています。
長らく主流であったラジアルギャップモーター(RGM)に対し、AGMはローターとステーターが円板状に対向する構造を持ちます。
圧粉磁心(SMC)技術の成熟により量産化の壁を越えたAGM最大の武器は、その圧倒的な薄型化と高トルク密度です。物理的な法則として、モーターの「アスペクト比(厚み ÷ 外径)」が0.75を下回る薄型領域において、AGMはラジアル型よりも高いトルクを発生させやすいという特性を持っています。

この特性は、「極力薄く、かつダイレクトに高トルクを出したい」ヒューマノイドロボットのQDD関節構造にとって、まさに理想的なアクチュエータと言えます。
2.ロボット関節におけるAGMの課題
AGMをそのままロボット関節に採用するには大きな壁があります。それは「外部からの巨大な荷重(特にモーメント荷重)の支持」です。
ロボットが歩行したり重量物を持ち上げたりする際、関節には強大な「こじり(モーメン ト)荷重」がかかります。従来のモーター設計では、ローターをモーターの中心軸に配置した小径ベアリング(深溝玉軸受の2列配置など)で支持するのが一般的です。
しかし、AGMの利点である「薄さ(軸受スパンが取れない)」と、中心軸配置による「小径(ピッチ円直径が小さい)」という条件が重なると、モーメント荷重に対する剛性が著しく不足します。結果として、強大な負荷がかかるとモーター内でローターが傾き、最悪の場合はステーターと接触して破壊に至ります。
3.解決策:KMFスリムスプリットベアリングによる最外径支持構造の提案
この課題を根本から解決するアプローチが、モーターの支持構造のパラダイムシフトです。すなわち、「小径の軸受を中心軸に配置する」のではなく、「大径の極薄軸受をモーターの最外径(ステーターの外側)に配置する」という設計です。
ここで鍵となるのが、ドイツ・KMF社が誇る特殊ベアリング「4点接触スリムスプリットベアリング(PBX..シリーズ)」の存在です。

① 圧倒的なモーメント剛性と安全係数の確保
軸受のモーメント荷重に対する剛性は、ピッチ円直径(PCD)の大きさに大きく依存します。最外径への配置によりPCDを飛躍的に大きくし、かつPBX..シリーズの「断面は極小だが転動体サイズが最大化されている」という特徴により、膨大な数の転動体で荷重を受けることができます。



上記のシミュレーション結果の通り、100Nmのモーメント荷重に対し、従来の中心軸支持では安全係数が約1.16と危険水域(基準2.0を下回る)に陥るのに対し、PBXSを用いた最外径支持では約10.1という圧倒的な安全余裕を確保できます。これにより、1つの極薄ベアリングであらゆる方向の衝撃荷重を受け止めることが可能になります。
② AGM特有の「熱膨張問題」をスプリット構造が吸収
AGMは構造上熱を持ちやすく、高負荷駆動時にはアルミ等のハウジングと軸受鋼の間に線膨張係数の違いによる熱ひずみが生じます。通常のソリッド(一体型)ベアリングでは、この熱膨張によって予圧が異常上昇し焼き付きを起こすか、ガタつきが生じてしまいます。 しかし、PBXSは内外輪に切れ目を持つ「スプリット(分割)構造」を採用しています。この特殊構造により、周囲のハウジングの熱膨張に追従して軸受自身の直径を微小に変化させることができ、常に最適な転がり状態を維持できるのです。
③ モーターと軸受の「機電一体化」による究極の薄型化
もしソリッドタイプの大径軸受を使用した場合、剛性を確保するためにハウジングが肉厚になり、AGM本来の「薄さ」が損なわれます。PBXSは超薄肉であるため、モーターのハウング外殻そのものを軸受の軌道輪支持構造として兼用できます。モーターそのものがロボットの「関節構造体」として機能する、真の機電一体アクチュエータが実現します。
4. 今後の展望
ヒューマノイドロボットの実用化に向けて、関節アクチュエータQDDには「薄さ」「ダイレクトな高トルク」「あらゆる荷重に耐える剛性」という相反する要素が求められています。
FT Engineeringでは、アキシャルギャップモーターのポテンシャルを最大限に引き出すため、この「PBXS最外径支持構造」の概念実証を進め、KMF社ならびに国内の先進的なモーターメーカーへの提案・協業を推進してまいります。


