こちらでは、KMF社のスリム・スプリット・ベアリングの特性を理解頂くために特殊製法についてご説明していきます。

1.切断面は何故接合しないのか?

KMFスリム・スプリット・ベアリングの特殊な製造方法は切削除去加工を行わないことにあります。

完全非公開の技術である専用冷間転造製法により素材の線材から直線の半製品として塑性加工されます。

その半製品を必要な周長に合わせて切断、円形にする加工を施し製品としております。

その切断面を溶接などで接合すれば従来のベアリングと同様の形状になるわけですが、長年の実験と経験からあえて切断面は溶接などの接合は行っておりません。

理由は溶接などの金属素材の組成の変化による不確定要素からくるトラブルを避けるためです。

溶接を行いますと、熱による硬度変化、形状的変化、内部応力の残留などが発生します。それらを解決するためには再熱処理、再加工などの工程を必要とします。結局、再熱処理による歪の発生や局所再加工による精度低下を考えると何もしない方がリスクが少なく合理的である、という結論に至りました。

このスリム・スプリット・ベアリングは断面形状と直径比率が大きい薄肉ベアリングというカテゴリーになり、1つのベアリングに使用される転動体の数量が平均して数百個という数に上ります。内外輪の切れ目を転動体が通過する際、一瞬その転動体への荷重が抜けることになりますが、総転動体数が多い為100分の1~の影響で無視できるほど僅かになります。

もし通常の深溝玉軸受けで転動体が10個以下なら切れ目の段差の影響が大きすぎて使用できません。

すなわち、スリム・スプリット・ベアリングにおいてのみ採用が可能な構造となっております。

写真:KMFスリム・スプリット・ベアリング 型番 PBXD

2.P5級精度を再現する為には?

KMFスリム・スプリット・ベアリングは製品単体に精度等級がございません。

一般的なJIS,ISO,DIN規格では精度等級が決められており、製品単体ごとに精度が刻印されています。同一型番でも精度が違えば価格は大きく違いがあります。

これは高精度の軸受は選別品となり大量に生産したロットからその精度に合致した(たまたま良い精度で出来ている)製品を選んでいる場合と、その精度を狙って特別な加工機械で時間ををかけて標準精度品と分けて作られるからです。

KMFスリム・スプリット・ベアリングは冒頭説明の通り製品単体での精度等級は存在せず、また、製品単体での精度検査が不可能でございます。(内外輪が切れているため)

軸とハウジングに組み込まれて初めて精度が発生します。

そして、この薄肉ベアリングであるスリム・スプリット・ベアリングは取り付けする軸とハウジングの仕上がり精度に依存します。

では、軸とハウジングをP5級以上の精度だとどうでしょうか?

KMFスリム・スプリット・ベアリングは良い軸とハウジング精度の場合P5級(高精度級)までは出ております。

特殊な製造方法で、この製品の断面形状が極めて均等に製造されております。すなわちリング状の軸受け内外輪の断面形状がどの場所を切っても寸分の違いなく同じ形状ならハウジングと軸精度に完全依存する、と言う事になります。

3.塑性加工による鍛流線

KMFスリム・スプリット・ベアリングの特殊製造は転造技術を応用しています。

完全冷間で1度の塑性加工変形工程のみで成型された半製品は表面に酸化スケールを発生させることが無く、極めてなめらかな仕上がりとなります。

特筆すべきはその塑性加工による金属組織の鍛流線の生成です。

KMFスリム・スプリット・ベアリングの内外輪の材質はDIN 1.4034

X46Cr13(JIS相当 SUS440C)でマルテンサイト系ステンレスです。

これは軸受鋼(SUJ鋼)と比較して硬度が低く軸受素材としては一部の用途にしか使用されていません。

KMFスリム・スプリット・ベアリングは断面形状が極めて薄く、直径の大きなものを製造する最も良い材質としてこのX46Cr13を採用しております。薄肉、大径ベアリングはSUJ材質だと硬度が高すぎて薄肉の場合割れてしまう可能性があることと、塑性加工には適していないためです。

SUJより高度が低いX46Cr13ですが、その特殊製造方法により、金属内部組織に単流線と言われる非常に組織が密で圧縮された良好な内部組織となります。これは金属組織(ファイバーフロー)が切断されないため表面の仕上がりが良好であることと、加工硬化により硬度が大幅に上昇します。

よってKMFスリム・スプリット・ベアリングが採用するX46Cr13ステンレスの選定はその製造方法と相まってベストであると言えます。

その他のメリットは一般的な軸受鋼と比較して防錆性に優れます。

クリーン環境で使用される製品の場合、大きなメリットと言えます。

例)

医療機器、食品製造機、半導体製造装置、協働ロボット、真空装置、等

4.この製品の精度担保技術

KMFスリム・スプリット・ベアリングの特殊製造は転造技術をしており、全自動で同一断面のレース面を直線で連続製造します。

この丸める前の半製品は塑性加工された直後に連続自動計測されます。

KMFスリム・スプリット・ベアリングは深溝玉軸受、4点接触玉軸受、クロスローラーベアリング等の断面を製造しています。

それぞれの形式により検査計測ポイントは異なりますが下図のように基準面(背面)から転動体の接触する部分の位置を厳密に管理しております。

原材料として使用される線材も一定の公差で太さのばらつきがあり、それを完全同一断面にするために、圧縮加工されて発生する“逃げ”部分が必要になります。

それはベアリング幅方向となります。ベアリング幅も一定の精度でしあ上げられますがその範囲は上記理由の為大きめに取ってあります。

KMFスリム・スプリット・ベアリングは製造方法や構造からJIS/ISOの検査基準に適合外となりますのでこの幅方向に関しても同様であり、周辺部品設計の際はKMF社の設計ガイダンスにて指定されています。

詳しくはエフティーエンジニアリングへお問い合わせください。

5.冷間転造による高い断面精度

KMFスリム・スプリット・ベアリングの特殊製造は転造技術をしており、全自動で同一断面のレース面を直線で連続製造します。

一般的には温間鍛造や熱間鍛造など素材温度を上げて(真っ赤に焼いて)素材を柔らかくして大きなプレス機で鍛造するというイメージがあります。

KMF社の特殊転造方法は完全冷間で製造されます。

また、複数の型を用いて徐々に目的の形状に仕上げてゆく鍛造ではなく一度の塑性加工工程で仕上げられます。

営業PRでお客様へ見ていただく製品サンプルは量産製品と全く同一品でメッキや特別な仕上げは施していないにもかかわらず、素手で触っても錆びず表面の滑らかさは皆さん驚かれます。

また、切削研磨仕上げの表面粗度と比べてスリム・スプリット・ベアリングの表面は爪でなぞっても切削目や凹凸が全く感じられません。

通常の転造ダイスは2つの型の間に製品を通すことで目的形状に塑性変形させますが、この製品は1つの型で仕上げられます。

よって、すべての同じ断面サイズの製品は1つの金型口より加工されたものであります。

素材温度や引き抜き速度、元線材の太さバラつきなどのパラメーターにより完全に同一条件で製造できるわけではありませんが、1度の生産で数百メートルを連続生産します。500m生産する初めの10mと後半の10mの断面ではわずかに違いが出る場合がございますが、基本的にその寸法変化は、例えば50m引き抜いている間に数ミクロンの変化があるという状態で、製品にすると内径500mmのベアリング単体での肉厚変化は50mで数ミクロン変化する傾斜のうち約1.6mを取り出しているわけですからほぼ製品単体での精度にバラツキが出ないと言う事になります。

【説明イメージ】

6.製法特許を出さない理由

KMFスリム・スプリット・ベアリングの特殊製造は創業者のヘルムート・バスナー博士によって開発されました。

この創業者はドイツの大手ベアリングメーカーで数々の特許を取得しており技術部門の責任者も経験しております。

しかし、いわゆる特許もその特許文章だけで際限(再現)が可能かどうかはかなり困難な事が多く彼は独自にその製造方法に関するノウハウを得ました。

それらこの素晴らしいアイデアを実現するために無くてはならない条件ですがそれを門外不出の技術としてKMFを創業いたしました。

実は当方(FT Engineering)もKMF本社で技術トレーニングを受講いたしましたが核心の製造工程は極秘とされており見学することは出来ませんでした。

KMFの社員も工程の担当するごく一部の操作手順に関する情報のみ開示されてそれ以外は一切知ることも不可能で自身に与えられた作業手順も契約によって一切口外出来ないようになっているとのことです。

現在は創業者ヘルムート・バスナー氏から息子のダニエル・バスナー氏へ引き継がれてまさに一子相伝の生産技術となっております。

7.カーボンニュートラルを達成出来ている稀有な製造メーカー

現在日本国内の大手製造メーカーでカーボンニュートラルを達成している企業はわずかで上場企業でPanasonic、日立製作所などがございます。

トヨタ自動車は2050年に向けてカーボンニュートラルを達成目標にしているなど既に多くの企業がカーボンニュートラルを達成すべく目標を立てて活動しております。

そして、カーボンニュートラルを達成するためにはカーボンフットプリントという、原材料や仕入れする製品ができるまでに排出されたCo2をも追跡して計算する事になります。

弊社の取り扱うKMF社は2020年にこのカーボンニュートラルを達成しております。

国内の大手製造業様は2030~2050年に達成目標とされておりますがカーボンフットプリントの視点からKMFは大いに有益な調達先であると自負いたします。

KMF社が早期に達成できた最大の要因は製造方法が鋼材(線材)を塑性加工変形のみで製造しており切削除去を行わず、また特別な熱処理など行わない工程の為早期に実現が出来ました。

8.サイズバリエーションに見る合理性

KMFのスリム・スプリット・ベアリングは5種類の断面形状をベースにしております。

そしてそれぞれ直径はほぼ無限にサイズ設定が可能です。

*標準品サイズも用意あり

*最小サイズ、最大サイズの設定あり

そしてベアリング断面と内部のボールの関係性は以下となります。

PBXS 3.175mm角   = 2mmボール

PBXU 4.5mm角    = 3.175mmボール

PBXA 6.35㎜角   = 4.5mmボール

PBXC 9.525mm角  = 6.35mmボール

PBXD 12.7mm角  = 9.525mmボール

スリム・スプリット・ベアリングは基本的に5つの金型で数万種類のベアリングを製造することが可能です。

また半製品素材としてこの5種類の直線軌道面を在庫することでいかような直径のベアリングも即時対応が可能です。 合理性を極めた究極のベアリングです。