【技術秘話】なぜKMFの薄肉ベアリングは強靭なのか?ドイツが生んだ「削らない」加工技術の正体
はじめに:常識を覆す薄さと強さの両立
私たちFT Engineeringが日本国内で展開するドイツKMF社の「スリム・スプリット・ベアリング」。 その最大の特徴は、極限まで薄肉化された設計と、内外輪が完全に分割できる構造にあります。しかし、機械設計に携わるエンジニアの方であれば、ある疑問を抱くのではないでしょうか。

「これほど薄いリングで、さらに分割されているのに、なぜ真円度を保ち、高荷重に耐えられるのか?」
その答えは、KMF社の製品が一般的な「切削加工」ではなく、ある特殊な「冷間成形技術」によって生み出されている点にあります。今回は、KMF社の核心とも言えるこの製造技術について、技術的な視点から深掘りします。
「除去」から「保存」へ:金属組織の連続性が生む強度
一般的なベアリングのレース(軌道輪)は、旋盤や研削盤で素材を削り出す「除去加工」で作られます。しかし、KMF社の内輪・外輪は違います。金属に物理的な圧力を加え、形状を転写・成形するプロセスを採用しています。
これは技術的には「転造(Rolling)」に近い概念です。 これは、切削加工が材料の繊維状組織(ファイバーフロー)を切断してしまうのに対し、この成形法は「体積一定の法則」に基づき、組織を切断することなく形状に沿って密に圧縮させます 。
この違いが、ベアリングの性能に決定的な差を生みます。
1.ファイバーフロー(鍛流線)の保存
軌道面断面形状に沿って金属組織が連続するため、転動体が通過する際の繰り返し応力に対する抵抗力が劇的に向上します。特に谷底やR部において、クラックの進展を防ぐ効果があります 。
2.加工硬化による表面改質
再結晶温度以下での激しい塑性変形により、転位密度が上昇し、熱処理前の段階ですでに表面硬度が向上しています。これにより耐摩耗性が高まります 。
3.圧縮残留応力の付与
成形プロセスによってレース表面に有益な「圧縮応力」が残留します。これが引張荷重に対する相殺力として働き、疲労強度を飛躍的に高めます。一般に、転造された金属の疲労強度は切削品に比べ1.5倍〜2倍に達するとも言われます 。
つまり、KMFのベアリングは単に「形を作っている」のではなく、「加工プロセスそのもので材料を強化している」のです。
門外不出の「ブラックボックス」技術
ここで興味深いのが、この具体的な製造プロセスが完全なるブラックボックスであるという点です。一般的な転造盤やプレス機であれば世の中に溢れていますが、KMF社のレース製造方法は極めて特殊であり、特許出願すらされていません。なぜなら、特許として公開することで技術が流出するリスクを避けるためです。
この技術は、KMF社の創設者であり開発者である Helmut Baesner(ヘルムート・ベスナー)氏が考案しました。そして現在、その詳細なノウハウは、息子の現社長 Daniel Baesner(ダニエル・ベスナー)氏へと一子相伝の形で受け継がれています。
社内でも、このプロセスの全容を正確に把握し、コントロールできる者はごく一部に限られているという徹底ぶりです。
ドイツのマイスター精神が息づくこの「秘伝のタレ」のような技術こそが、他社が容易に模倣できないKMF製品の優位性を支えています。
薄肉・分割でも「歪まない」理由
通常、薄肉のリングを切削加工で作ると、材料内部の残留応力の解放によって「加工歪み」が発生しやすくなります。ましてや、それを分割(スプリット)すれば、真円度を維持するのは至難の業です。
しかし、KMFの特殊成形法は、塑性流動によって組織を緻密化させながら成形するため、形状が安定します。さらに、表面の平滑性(面粗さ)においても、ダイスの鏡面が転写されるため、摺動性において有利に働きます 。
KMFのスリム・スプリット・ベアリングが、分割構造でありながら高い精度と剛性を発揮できる背景には、このような「金属物理学に基づいた必然」が存在するのです。
おわりに
我々FT Engineeringは、単に製品を輸入して販売するだけでなく、その背景にある技術思想や製造プロセスの優位性を含めて、日本のエンジニアの皆様にご提案したいと考えています。
「薄くて、軽くて、分割できる。しかも強靭である。」 この矛盾する要素を解決したKMF社のテクノロジーを、ぜひ貴社の設計課題の解決にお役立てください。
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