連載:回転ベアリングの潤滑技術(全4回)~第1回:潤滑の科学 — ベアリング寿命を左右する「油膜」の物理学

回転ベアリング(転がり軸受)が機械の中で果たす役割は重要ですが、その性能を発揮できるかどうかは「潤滑」にかかっています。第1回では、ベアリング内部で起きているミクロな物理現象、特に「EHL(弾性流体潤滑)」という驚くべきメカニズムについて、数式や理論を交えて深く掘り下げます。

1.潤滑の4大機能と摩擦のメカニズム

ベアリング潤滑の目的は、単に摩擦を減らすことだけではありません。以下の4つの機能が複合的に作用して、機械の寿命を延ばしています。

 A.金属接触の防止(摩擦・摩耗の低減):転動体(ボールやローラー)と軌道輪(レース)の間に潤滑膜を形成し、固体同士の接触を防ぎます。これが不十分だと、凝着摩耗やアブレシブ摩耗が発生し、早期剥離(フレーキング)につながります。

 B .熱の除去(冷却作用):ベアリング内部では、転動摩擦、滑り摩擦、潤滑剤の撹拌抵抗によって熱が発生します。特に循環給油(オイル潤滑)では、この熱を外部へ運び去る冷却効果が、焼付き防止の生命線となります。

 C.異物の侵入防止(シール効果):グリース潤滑において顕著な機能です。漏れ出たグリースがハウジングの隙間で「土手」を形成し、外部からの塵埃や水分の侵入を物理的に阻止します。

 D.防錆(腐食防止):金属表面を油膜で覆う事で、酸素や水分との接触を断ち、錆の発生を防ぎます。

2. ストライベック曲線と潤滑領域

潤滑状態は、潤滑剤の粘度(η)、滑り速度(v)、および面圧(P)の関係によって変化します。これを可視化したのが「ストライベック曲線」です。摩擦係数 μ を縦軸に、ヘルツパラメータ(ηv/P)を横軸にとると、3つの領域が見えてきます。

①境界潤滑 (Boundary Lubrication):始動直後や極低速・高荷重時に発生します。油膜厚さが表面粗さよりも薄く、金属同士の突起が接触しています。ここでは、潤滑剤中の添加剤が金属表面と化学反応して作る「反応被膜」が摩耗を防ぐ頼みの綱となります。

②混合潤滑 (Mixed Lubrication):速度が上がると油膜が厚くなり始めますが、依然として突起の一部は接触している過渡的な状態です。

③流体潤滑 (Full Lubrication):金属表面が油膜によって完全に分離された理想的な状態です。ベアリングの長寿命化には、この領域での運転が不可欠です。

3. EHL理論(弾性流体潤滑)の驚異

ベアリングの転動体と軌道輪の接触部は「点接触」または「線接触」であり、その接触面積は極めて小さく、発生する圧力は数千気圧(最大40,000 barにも達する)という凄まじい値になります。

通常の流体理論では、このような高圧下で油膜が維持されることは説明できません。ここで登場するのがEHL(Elastohydrodynamic Lubrication:弾性流体潤滑)理論です。EHLには2つの重要な物理現象が関与しています。

(1)粘度の劇的な増大(ピエゾ粘性効果)液体は非圧縮性と思われがちですが、数千気圧もの高圧下では挙動が変わります。潤滑油の粘度は圧力に対して指数関数的に増大します。これを表すのがBarusの式です。

・η:高圧下での伝度
・η0:大気圧下での粘度
・α:圧力粘度係数
・p:圧力

この式が示す通り、接触点でのオイルはもはや液体ではなく、固体に近いアモルファス状に変質しています。この「硬くなった油」が、高い荷重を支えるのです。

 (2) 金属の弾性変形

高圧を受けた金属(鋼)は、ごくわずかに窪みます(弾性変形)。この変形によって接触面積が広がり、圧力が分散されることで、油膜の形成が助けられます。この2つの効果により、わずか0.1〜1ミクロン程度の極薄のEHL油膜が形成され、これがベアリングを金属疲労から守っているのです。(次回に続く)

参考文献: Schaeffler Technologies, TPI 176 “Lubrication of Rolling Bearings”