連載:回転ベアリングの潤滑技術(全4回)~第2回:潤滑剤の選定 — グリースとオイルの適材適所

第2回では、数ある潤滑剤の中から最適なものを選ぶための技術的基準を解説します。産業用ベアリングの90%はグリース潤滑ですが、なぜオイルが必要な場合があるのでしょうか?

1.グリース潤滑:構造と特性

グリースは「増ちょう剤(Thickener)」という網目構造(スポンジのようなもの)の中に、「基油(Base oil)」と「添加剤」を保持した半固体状の潤滑剤です。

増ちょう剤の種類:

•リチウム石けん: 耐水性、機械的安定性に優れ、最も一般的(万能グリース)。
•ウレア系: 耐熱性が高く(〜160℃以上)、高温・高速用途に使用されます。
•フッ素系(PTFE): 250℃を超える極限環境や、耐薬品性が必要な場合に使用されますが、非常に高価です。

ちょう度(NLGIグレード):グリースの「硬さ」を表します。転がり軸受には通常、NLGI 2号(ピーナッツバター程度の硬さ)または3号が使われます。集中給脂システムでは、配管抵抗を減らすため、より柔らかい0号や00号が選ばれることもあります。

2. オイル潤滑:高速・高温への解

グリースの限界(冷却不可、寿命がある)を超える条件では、オイル潤滑が選択されます。

油浴:
オイルバス方式: 最も単純ですが、撹拌抵抗による発熱があるため、中速域までに制限されます。

循環給油:
ポンプでオイルを循環させ、フィルタで清浄化し、クーラーで冷却してベアリングに戻します。
高速・高温の主軸やギアボックスに最適です。

オイルエア潤滑:
圧縮空気で微量のオイルを連続的に供給します。空気流が冷却とシールの役割も果たし、dn値(軸径×回転数)が200万を超えるような超高速工作機械主軸で標準的に使用されます。

3. 基油の化学:鉱油 vs 合成油潤

滑性能の根幹をなすのは「基油」です。

•鉱油 (Mineral Oil): 原油を精製したもの。安価で一般的ですが、120℃を超えると酸化劣化が早まります。
•PAO (Polyalphaolefin): 合成炭化水素油。粘度指数が高く(温度による粘度変化が少ない)、低温流動性と酸化安定性に優れます。
•エステル油 (Ester): 極性が高く金属への吸着性が良いため、薄い油膜でも潤滑性を発揮します。また、生分解性を持つものもありますが、加水分解(水分による劣化)に注意が必要です。

4. 潤滑剤選定のロジック:速度パラメータ

選定の第一歩は、速度パラメータ(n・dM)の確認です。

•n: 回転速度 (min-1)
•dM: ベアリング平均径 ((D+d)/2)
高速回転(n・dMが大きい)ほど、発熱を抑えるために低粘度の基油が必要です。逆に低速・高荷重では、油膜を維持するために高粘度の基油が必要となります。

                                     (次回に続く)

参考文献: Schaeffler Technologies, TPI 176 “Lubrication of Rolling Bearings”