ベアリング技術講座⑤
ベアリング選定の勘所:寿命計算の歴史と進化、そして合理性
FT Engineeringの技術ブログへようこそ。今回は、機械設計の根幹を支える要素の一つである「ベアリング(軸受)」の選定、特にその寿命計算の考え方について、歴史的背景から最新の理論までを掘り下げて解説します。見た目はシンプルな部品ですが、その背後には深い工学的な知見と、経済合理性に基づいた設計思想が隠されています。
ベアリング寿命計算の原点:基本定格寿命
ベアリングの寿命を語る上で最も基本となるのが「基本定格寿命(L_10)」です。これは、一群の同じベアリングを同じ条件で運転したとき、そのうちの90%が転がり疲れによる損傷(フレーキング)を起こさずに到達できる総回転数(または時間)として定義されます。この考え方は、国際規格(ISO 281)や日本産業規格(JIS B 1518)で定められており、世界中の設計者が共通の物差しとして利用しています。基本定格寿命は、以下の計算式で表されます。

ここで、
・L_10: 基本定格寿命
・C: 基本動定格荷重 (N) – ベアリング固有の、寿命が100万回転となる荷重
・P: 動等価荷重 (N) – 実際にベアリングにかかる荷重
・p: 寿命指数 (ボールベアリング: 3, ころ軸受: 10/3)
この理論の基礎は、1947年にスウェーデンの工学者、グスタフ・ルンドベリ(G. Lundberg)とアルビド・パルムグレン(A. Palmgren)が発表した転がり疲れ寿命に関する画期的な論文に遡ります。彼らの理論は、材料内部の応力分布と欠陥の確率論的関係から寿命を予測するもので、その後のベアリング技術の発展に絶大な影響を与えました。
理論と現実のギャップを埋める:修正定格寿命への進化
Lundberg-Palmgren理論が確立された当初、ベアリング鋼材には現代に比べて多くの不純物(非金属介在物)が含まれていました。しかし、その後の製鋼技術の目覚ましい進歩により、鋼の清浄度は劇的に向上。結果として、実際のベアリング寿命は基本定格寿命の計算値を大きく上回るケースが一般的になりました。
また、潤滑状態や汚染、取り付け精度といった運転条件も、寿命に大きな影響を与えることが分かってきました。そこで、これらの要因を考慮し、より現実に即した寿命予測を行うために導入されたのが「修正定格寿命(L_nm)」です。

ここで追加された係数が重要です。
・a_1(信頼度係数) 90%以外の信頼度を求めるための係数。後ほど詳しく解説します。
・a_ISO(寿命修正係数): 潤滑条件(油膜の厚さ)、汚染度(コンタミネーション)、そして材料の疲労限度を考慮した係数です。特に「疲労限度」の概念は重要で、ある一定以下の荷重であれば、材料は理論上無限の寿命を持つという考え方を取り入れています。これにより、軽荷重で清浄な潤滑下にあるベアリングの寿命が、非常に長く計算されるようになりました。
信頼度90%の意味と、用途による設計思想の違い
基本定格寿命の信頼度「90%」とは、「100個のベアリングを同じ条件で運転した際、10個は90%の寿命に達する前に故障する可能性がある」ことを意味します。この「10%の故障確率」を許容できない、より高い信頼性が求められる用途では、信頼度係数a_1を用いて目標の信頼度で寿命を計算します。

この表が示すように、例えば信頼度を99%に設定すると、a_1は0.21となり、計算上の寿命はL_10の約1/5になります。同じ寿命時間を達成するためには、はるかに大きな、つまり高価で重いベアリングを選定する必要があることを意味し、設計に極めて大きな影響を与えます。
この信頼度の考え方は、製品の使われ方や求められる安全性によって大きく異なります。
・宇宙ロケット: 一度きりの打ち上げで再利用しない部品と、スペースシャトルや再利用型ロケットのように繰り返し使用される部品では、当然ながら設計思想が根本から異なります。特に再利用されるエンジンやターボポンプのベアリングは、極低温・極高温、高回転、強振動という過酷な環境下で、極めて高い信頼性が要求されます。
・ヘリコプター: 主回転翼(メインローター)の軸を支えるベアリングは、その故障が直ちに墜落に繋がるため、絶対的な信頼性が求められます。ここでは、単純な寿命計算だけでなく、フェイルセーフ設計(一部が破損しても機能が維持される設計)が取り入れられ、厳格な点検・交換プログラムによって運用されています。信頼度99.999…%といったレベルでの議論が必要となる世界です。
・家庭用電化製品: 洗濯機や冷蔵庫は、メーカーが想定する標準的な使用年数と総運転時間がおおよそ決まっています。その目標寿命を、過剰すぎず、不足もない信頼度(例えば95%など)で満たす、最もコスト効率の良いベアリングが選定されます。
・電動工具: ホームセンターで販売されている家庭用DIYドリルと、建設現場で毎日酷使されるプロ用ドリルは、外観が似ていても内部の耐久性は全く異なります。プロ用は、高い衝撃荷重や長時間の連続運転に耐えるため、より堅牢で長寿命なベアリングが組み込まれています。使用頻度が100倍以上違うことも珍しくなく、その差が価格に反映されています。
まとめ:合理的なベアリング選定こそが、優れた設計の証
ベアリングの選定は、単にカタログから寸法と荷重だけで選ぶ作業ではありません。その製品が置かれる環境、求められる安全性、そして製品ライフサイクル全体での経済性を見据え、適切な寿命計算と信頼度設計を行うことが不可欠です。
LundbergとPalmgrenの理論から始まった寿命計算は、材料力学、トライボロジー(摩擦・摩耗・潤滑の科学)、確率統計学の進歩を取り込み、より精緻なものへと進化を続けています。私たちFT Engineeringは、こうした工学的な背景を深く理解し、お客様の製品にとって最も合理的で最適なベアリング選定をご提案することで、競争力のあるものづくりに貢献してまいります。


