KMFスリムスプリットベアリングのクリープ現象防止メカニズムについて
1. はじめに
従来のベアリング(ソリッドベアリング)において、軸と内輪、またはハウジングと外輪の「しまりばめ」は、運転中のクリープ(スリップ)現象を防止するために不可欠な要素です。
KMFスリムスプリットベアリングは、その構造上「しまりばめ」を用いません。そのため、従来の常識に基づけば、運転中に内輪が軸からスリップするのではないかという懸念は当然のものです。
しかし、本製品は従来の「しまりばめ」とは全く異なる設計思想に基づき、クリープを防止するメカニズムを有しています。本レポートでは、その技術的・理論的根拠についてご説明いたします。
2. クリープ(スリップ)を防ぐ「抵抗摩擦力」
クリープとは、ベアリングが荷重を受けながら回転する際、軌道面の「転がり摩擦」に起因する微小な力(引きずり力)によって、軸やハウジングに対してリングが滑り動いてしまう現象です。このクリープを防ぐ原理は、ソリッドベアリングもスプリットベアリングも同じであり、スリップさせようとする「引きずり力」を上回る「抵抗摩擦力」を発生させることです。

3. KMFスプリットベアリングのクリープ防止メカニズム
本製品は、「はめあい」に頼るのではなく、以下の2段階のメカニズムによってクリープを防止する「抵抗摩擦力」を確保します。
3.1. メカニズム①: 静止時の保持力(内輪の弾性による自己緊縛)
KMFスリムスプリットベアリングの内輪は、切断面があることで、リング全体が「ばね(Cリング)」としての性質を持ちます。
・設計: 内輪は、その自由状態の直径が、取り付けられる軸の溝径よりもわずかに小さく設計されています。
・取付: 軸の溝にはめ込む際、内輪は弾性変形によってわずかに「押し広げられ」ます。
・力の発生: 押し広げられた内輪が元に戻ろうとする「弾性復元力」が、内輪を軸の溝に対して全周から強く押し付ける力(N spring)となります。
この N spring が、運転前の基礎的な保持力(抵抗摩擦力)となり、軽微な振動や起動トルクによるスリップを防ぎます。
3.2. メカニズム②: 運転中の保持力(荷重伝達による圧着) – 最重要 –
これが、本製品がスリップしない最も核心的な理由です。運転中、ベアリングにラジアル荷重( F load )がかかると、その力は「外輪 → 転動体 → 内輪」の順で伝達されます。
この伝達の過程で、荷重を受けている部分の転動体が、内輪を軸に向かって強く押し付けます。この押し付ける力こそが、メカニズム①のばね性とは比較にならないほど巨大な垂直抗力( N load )となります。
運転中の総垂直抗力
N total = N spring + N load
つまり、KMFスプリットベアリングは、「仕事(荷重を支える)」ことによって、自らスリップを防ぐ力を自動的かつ強力に発生させる、セルフロック機構を有していると言えます。荷重が大きくなるほど、軸への圧着力( N load )も増大し、より強力な抵抗摩擦力を発生させます。
4. 「スリム(薄肉)構造」の優位性(倣い性)
上記2つのメカニズムが破綻せず、効率的に機能するために不可欠なのが、本製品の「スリム(薄肉)構造」です。
もしベアリングが厚肉で剛性が高い場合、荷重は非常に狭い「点」に集中します。これでは接触面積が稼げず、局所的な応力集中やスリップを引き起こす可能性があります。
本製品はスリム(薄肉)で柔軟性が高いため、荷重がかかった際に内輪がしなやかに変形し、軸の真円形状に沿って「倣い(ならい)」ます。この「倣い性」により、荷重やばね性が「点」ではなく「広い接触面積」にわたって分散されます。接触面積が最大化されることで、上記メカニズム①②で発生した垂直抗力(N)を、最も効率よく抵抗摩擦力に変換することができるのです。
5. 結論
KMFスリムスプリットベアリングは、従来の「しまりばめ(静的な寸法拘束)」に依存する設計思想とは異なります。
以下の3つの技術的根拠の組み合わせにより、クリープ(スリップ)現象を能動的に防止しています。
1.内輪の「ばね性」が、基礎的な締付力( N spring )を生み出します。
2.運転中の「荷重伝達」が、荷重に比例した強力な圧着力(N load )を自動的に発生させます。
3.「スリム(薄肉)構造」の柔軟性(倣い性)が、上記2つの力を広い接触面積で受け止め、 抵抗摩擦力を最大化します。
この設計思想により、本製品は「はめあい」が無くとも、高荷重下でスリップすることなく安定した運転が可能となります。
なお、フェイルセーフ思想に基づいた絶対に内外輪の滑りを発生させたくない状況において予防措置的にロックタイト(ねじゆるみ防止剤)などを点付けして取り付けるケースもあります。
スリム・スプリット・ベアリングのカタログ(PDF) は以下の画像をCLICK





