【機械設計者向け】「最強」が正解とは限らない?ボルト選定と電蝕の落とし穴

日頃、私たちはベアリングや減速機といった回転機器のエンジニアリングに携わっていますが、お客様との技術打合せでは、メインの機械要素だけでなく、それらを固定する「ボルト」や「周辺部材の素材相性」について議論が白熱することもしばしばあります。

「神は細部に宿る」と言いますが、どれほど高性能なベアリングを選定しても、それを支える締結部や素材の組み合わせに無理があれば、機械の寿命は縮まってしまいます。

今回は、設計現場で見落とされがちな強度区分12.9ボルトのリスクと異種金属接触による電蝕について、私たちが現場で重視しているポイントを共有したいと思います。

1.強度区分12.9ボルトの採用は慎重に

高負荷がかかる箇所を設計する際、とりあえず最強の12.9を使っておけば安心だと考えていませんか? 実は、その選択が逆に重大な事故を招く可能性があります。

最大のリスクは「遅れ破壊(水素脆化)」です。

強度区分12.9(引張強さ1200N/mm²クラス)の高強度ボルトは、金属組織が硬い反面、水素に対する感受性が極めて高くなっています。製造工程や使用環境で微量の水素が侵入すると、ある日突然、外見上の予兆(伸びや変形)もなく、ガラスのように脆く破断することがあります。

FT Engineeringからのアドバイス:

■原則は「10.9」を採用する: 強度と靭性(粘り)のバランスが良く、遅れ破壊のリスクが低い「10.9」を標準として推奨します。

■メッキ品は特に注意: 12.9ボルトへの電気メッキ(ユニクロ等)は、水素吸蔵のリスクが高いため、JISでも推奨されていません。防錆が必要な場合は、特別な表面処理や対策品が必要です。

「強さは脆さでもある」このことを念頭に置いた選定が、機械の安全性を担保します。

2. 「見えない電池」が機械を溶かす:電蝕の恐怖

次に注意したいのが、異なる金属を組み合わせた際に発生する異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)です。

水分が存在する環境で電位の異なる金属が接触すると、そこに回路ができ、電池のように電流が流れます。この時、電位の低い(錆びやすい)金属がイオン化して溶け出します。

特に設計者が警戒すべきは面積比(大カソード・小アノード)の法則です。

■危険な例: 「大きなステンレス板」に「小さな鉄ボルト」

■結果: ステンレス(錆びにくい側)が受ける電流を賄うため、小さな鉄ボルト(錆びやすい側)に腐食エネルギーが一点集中し、ボルトが急速に痩せ細って破断します。

逆に「大きな鉄板」に「小さなステンレスボルト」であれば、鉄板側がわずかに錆びる程度で済み、構造的な致命傷は避けられます。

3. そのカッパーグリス、アルミに使っていませんか?

電蝕対策や焼付き防止として、ネジ山に「銅(カッパー)コンパウンド」を塗布することがあります。高温の鉄鋼部品同士なら有効ですが、相手が「アルミニウム」の場合は使用厳禁です。

銅は非常に電位が高い(貴な)金属です。これをアルミ(電位が低い)に塗ると、コンパウンド自体が強力な腐食促進剤となり、アルミのネジ山をボロボロに溶かしてしまいます。

アルミ筐体への正しい処方箋:

■メタルフリー(非金属)系コンパウンドを使用する。

■もしくは、アルミ粉末配合のアンチシーズを使用する。

現場で「とりあえず手元にあるグリスを塗る」ことがないよう、図面や組立要領書で指定することが重要です。

最後に:部品単体ではなく「システム全体」を見る

私たちFT Engineeringは、KMF社のベアリングや直動製品を取り扱っていますが、単に部品を右から左へ流すだけの商社ではありません。

「このベアリングを固定するボルトは適切か?」 「ハウジングの材質と使用環境で腐食は起きないか?」

そうした周辺環境を含めたトータルなエンジニアリングこそが、機械の信頼性を決めると信じています。 ベアリングの選定はもちろん、締結や機構設計に関する細かなお悩みも、ぜひ私たちにご相談ください。エンジニアリングの視点で、最適な解をご提案いたします。