ベアリング技術講座③
保持器が使えない?総ボールは避けたい…その悩みを解決する第三の選択肢
ベアリングの選定において、特殊な環境が大きな壁となることがあります。「高温や真空で樹脂製の保持器が使えない」「かといって金属保持器も適さない」。こうした状況でまず候補に挙がるのが、保持器のない「総ボールベアリング」です。
しかし、総ボールベアリングは転動体(ボール)の数を最大化できる反面、ボール同士が直接接触することで生じる大きな摩擦と発熱が、回転性能の足かせとなるケースも少なくありません。
今回は、このジレンマを解決する、非常に巧みな「第三の選択肢」であるスペーサーボールベアリングについて、その原理と特徴を深掘りします。
スペーサーボールベアリングとは?
スペーサーボールベアリングとは、荷重を受ける「主ボール」の間に、それより直径の小さな「スペーサーボール」を交互に配置した特殊な構造のベアリングです。

この小さなスペーサーボールが、まさに「転がる保持器」の役割を果たし、主ボール同士の直接接触を防ぎます。
摩擦低減の核心原理 – 「すべり」を「転がり」に変える
このベアリングの最大の技術的特徴は、摩擦を劇的に低減するそのメカニズムにあります。
総ボールベアリングの場合 隣り合うボールは同じ方向に回転するため、接触点では互いの表面が逆方向に動こうとし、大きな「すべり摩擦」が発生します。これが高トルク・高発熱の主な原因です。
スペーサーボールベアリングの場合 主ボールの間に挟まれたスペーサーボールは、まるで遊星歯車(アイドラー)のように、主ボールとは逆方向に回転します。これにより、ボール同士の接触は「すべり」から「転がり」に変わり、摩擦の発生が劇的に抑制されるのです。
この「すべりを転がりに変える」というトライボロジー(摩擦工学)的な発想の転換こそ、このベアリングが持つ最大の価値と言えるでしょう。
性能を徹底比較
では、従来のベアリングと比べて性能はどうなのでしょうか。3つのタイプを比較してみましょう。

表からわかる通り、スペーサーボールベアリングは「保持器付き」と「総ボール」の長所をバランス良く兼ね備えた、まさに「いいとこ取り」の性能を持っていることがお分かりいただけるかと思います。
主なメリットと適用分野
メリット
•保持器レスによる優れた耐環境性(高温、低温、真空、腐食雰囲気)
•総ボール形式に比べ、大幅に低い摩擦トルクと発熱
•保持器付きに比べ、高い荷重容量と剛性
主な適用分野
•半導体製造装置などの真空・クリーン環境
•各種熱処理炉や航空宇宙分野などの高温・低温環境
•保持器の摩耗粉やグリスを嫌う食品・医療機器
•高い剛性が求められるロボット関節部
まとめ
スペーサーボールベアリングは、特殊な環境下で性能を発揮する、非常に専門性の高いベアリングです。一般的な選択肢ではありませんが、保持器の制約という設計上の課題に直面した際に、ブレークスルーをもたらす強力な解決策となり得ます。
FT Engineeringでは、こうした専門的な知見に基づき、お客様一人ひとりの課題に最適なソリューションをご提案します。ベアリングに関するご相談はもちろん、あらゆる機械要素部品のお悩みは、ぜひ当社までお気軽にお問い合わせください。


