「金属一択」からの脱却:次世代の機械設計を変える『PPS-CF30』のポテンシャル
導入:機械設計における「素材」の再定義
私たちFT Engineeringは、長年にわたり機械設計・開発の最前線に立ってきました。私たちのチームを含め、機械設計者の多くは機械工学のバックグラウンドを持ち、構造部材といえば「まずはSS材やS45C、あるいはアルミ(A5052など)」と、無意識に金属を選択する傾向があります。
しかし、近年の樹脂材料、特にエンジニアリング・プラスチックの進化は目覚ましく、もはや「樹脂=強度不足」という図式は成立しなくなっています。
今回は、金属に近い特性を持ち、設計の自由度を飛躍的に高める可能性を秘めた複合素材「PPS-CF30」について、その特性と機械設計における将来性を論じたいと思います。
1.PPS-CF30とは何か?
PPS(ポリフェニレンサルファイド)は、優れた耐熱性と耐薬品性を持つスーパーエンジニアリングプラスチックです。これに「CF(Carbon Fiber:炭素繊維)」を30%配合し、構造体としての強度を劇的に高めたものがPPS-CF30です。
単なるプラスチックではなく、「金属と樹脂の中間」に位置するハイブリッドな素材と言えます。

2. 機械設計における5つのメリット
なぜ、私たちが今、金属ではなくこの素材に注目すべきなのか。設計者の視点から見るメリットは以下の通りです。
• 驚異的な比強度と軽量化
アルミ(比重約2.7)に対し、PPS-CF30(比重約1.4〜1.6)は約半分の重量です。炭素繊維による補強で高い剛性を持ち、可動部品に採用すれば慣性モーメントの低減に直結します。
• 寸法安定性と低クリープ
結晶性樹脂であるため吸水率が極めて低く、湿度による寸法変化がほぼありません。また、長時間荷重がかかっても変形しにくい(低クリープ特性)ため、精密な機構部品に適しています。
• 耐熱・耐薬品性
連続使用温度は200℃を超え、多くの有機溶剤や酸・アルカリに対しても高い耐性を持ちます。油分や冷却液が飛び交う過酷なFA環境下でも劣化しにくい特性があります。
• 自己潤滑性と摺動性
PPS自体が持つ摺動性に加え、CF(炭素繊維)が摩耗耐性を向上させます。条件によっては無潤滑(ドライ)環境での使用も視野に入ります。
• 金属インサートとの相性
線膨張係数がアルミに近いため、金属部品と組み合わせたインサート成形やアセンブリにおいても、温度変化による歪みやガタツキが発生しにくい利点があります。
3. 「向き・不向き」を理解する
魔法の素材に見えますが、設計者として留意すべき「癖」もあります。
• 【不向き・注意点】
衝撃荷重: 非常に硬いため、粘りが少なく「脆い」側面があります。衝撃が加わる箇所には不向きです。
異方性: 繊維の流れ(配向)によって強度が異なります。流動解析やゲート位置の検討など、金型設計レベルでの考慮が必要です。
ウェルドライン: 樹脂の合流部(ウェルド)の強度が低下しやすいため、応力集中部を避ける設計センスが問われます。
• 【最適な用途】
ロボットアームの先端ツール(軽量化)
ポンプのインペラやハウジング(耐薬品性・寸法安定性)
精密機器のギア、軸受保持器(摺動性・耐熱性)
検査装置のセンサーブラケット(高剛性・軽量)
4. 経済性の視点:トータルコストダウンの鍵
「PPS-CF30は材料単価が高いのではないか?」という疑問はもっともです。確かにキログラム単価で見れば、汎用樹脂や鉄よりも高価です。
しかし、機械加工(切削)でアルミ部品を製作する場合と比べてみてください。
•切削加工: 材料費 + 長時間の加工チャージ + 表面処理
•費射出成形(PPS-CF30): 材料費(高) + 短いサイクルタイム + 表面処理不要(または最小限)
複雑な形状であればあるほど、また量産効果が出るロット数であれば、「射出成形によるネットシェイプ(後加工なし)」が可能となり、トータルコストは劇的に下がります。
また、軽量化によるモーター容量のダウンサイジングや、メンテナンスサイクルの延長など、運用コストを含めた経済合理性は非常に高いと言えます。
5. 将来性とFT Engineeringの提言
素材の選択肢を増やすことは、設計の「解」を増やすことです。
これからの機械設計は、単に動くものを作るだけでなく、省エネ(軽量化)、長寿命、そして製造プロセスの効率化までを含めたトータルデザインが求められます。その中で、PPS-CF30のような複合素材は、金属の限界を突破する鍵となるでしょう。
FT Engineeringでは、従来の金属設計のノウハウを活かしつつ、こうした先端素材を適材適所で組み合わせる「ハイブリッドな設計提案」を行っています。「この部品、金属で作り続けていいのか?」「もっと軽く、高機能にできないか?」とお悩みの際は、ぜひ一度ご相談ください。


